無痛分娩について

無痛分娩について

分娩時の痛みは強く、初産婦においては指の切断に匹敵するとも言われており、先進国では多くの分娩が無痛分娩により行われています。アメリカの麻酔科学会・産科婦人科学会は1992年に『産痛の緩和を求めることは女性の権利』との声明を発表しました。
日本でも多くの施設で施行されるようになってきており、最新のデータでは全分娩の6%が無痛分娩で施行されているとのことです。無痛分娩の安全性は十分に確立されており、帝王切開率や胎児の状態にも悪影響がないことが証明されています。
安全性が確立されている、といってもここ数年、日本では各地で無痛分娩の事故が話題となりました。世界で安全性が確立している無痛分娩で、なぜこれほど事故が相次いだのでしょうか。それは世界の分娩施設とのシステムの違いにあります。欧米の無痛分娩は集約化された大病院で、麻酔科専門医(それも産科麻酔専門の麻酔科専門医)が24時間365日、無痛分娩に関わります。日本は麻酔科医不足もあり、無痛分娩の多くを麻酔科医のいない産科クリニックで行ってきました。
医療行為である以上、100%の安全はあり得ません。しかし、麻酔科専門医が無痛分娩に関わることにより、世界最高レベルとほぼ同等の安全性を確保することは可能です。
ご希望の方は妊娠30週までにお伝え下さい。

無痛分娩の方法

分娩の痛みを和らげる方法には様々なものがあります。呼吸法、精神予防法(ラマーズ法)、アロマテラピー、水中分娩なども分娩和痛法と考えられていますが、十分な鎮痛を確実に得るのは難しいのが実情です。現在、最も確実に痛みを緩和させる方法として確立されているのは脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔と言われる方法です。当院では硬膜外麻酔を用いて痛みを緩和させる方法をとっています。
脊椎の中の太い神経は、硬膜という袋に包まれています。その袋のすぐ外側が硬膜外腔と言われるスペースです。硬膜外麻酔とは、脊髄の硬膜外腔に細いカテーテルチューブを留置して、そこから局所麻酔薬などを投与する方法で、腹部・胸部手術の術後の痛みを少なくするためにも使われている手法です。麻酔科医であれば日常的に施行している手技・手法です。
無痛分娩と言っても、効果は個人差があり、完全に痛みをとってしまうと分娩が進行しないこともあり、ある程度の痛みは感じることが多いです。しかし、我慢できる程度の痛み、軽い痛みにコントロールできるように管理しています。そのため和痛分娩と呼ぶこともあります。

無痛分娩の長所

無痛分娩の長所はまず何より、痛みが少ないことです。痛みがコントロールされているため、分娩中の体力消耗が少なく、分娩後の体力回復も早いと言われています。以前は陣痛の痛みが母性を育てる、といった意見もありましたが、世界的な無痛分娩の普及によりこの考えは否定されてきており、むしろ産後の体力回復が良いため育児・母児愛着にも好影響があることが示されています。
吸引分娩・鉗子分娩が必要になったときにも、無痛分娩を施行していないとかなりの痛みを伴います。無痛分娩中であれば、こうした器具を挿入するときの痛みもほとんどなく、また傷の縫合時もほとんど苦痛を感じません。
また痛みをコントロールすること・交感神経を抑制することで心拍数が増えすぎたり、血圧が上昇しすぎたりすることを防ぐことができます。不整脈や脳の疾患がある場合は、心拍数や血圧をコントロールした方が安全であり、無痛分娩が推奨されます。

無痛分娩の短所

無痛分娩も医療行為である以上、万が一ですが合併症が生じることがあります。硬膜外麻酔の最も重篤な合併症として、局所麻酔薬中毒・全脊椎麻酔・アナフィラキシーショックといったものがあげられます。どれも万が一ですが、きちんと対応することで適切に救命することができます。万が一の時の対応を熟知している麻酔科医が無痛分娩施行中には常駐することで緊急時に対応できる体制を整えています。
当院では麻酔科専門医の監視下で安全で確実な無痛分娩を施行するため、計画分娩となります。そのため陣痛促進剤を用いる必要が生じます。(無痛分娩は計画でなくても、陣痛促進剤を必要とすることが多いことが示されています。)
また吸引分娩・鉗子分娩と行った補助経膣分娩の手技を必要とすることが多くなることは統計学的に示されています。(帝王切開率は上がりません。)
こういった分娩に対する介入の可能性が上がるのは確かですが、どれも無痛分娩を選択しなくても、必要に応じて施行されるごく一般的な産科的医療介入・手技です。

最後に

最も大事なことは、『選択できること』だと考えています。わずかでも合併症のリスクがある無痛分娩をしたくない自由もあってよいのです。多くの方が痛みに耐えて無事分娩しています。
しかし、痛みに耐えがたい方には、無痛分娩という選択肢があることは是非、知っておいてほしいと思います。万が一の合併症はあり得ますが、微々たる確率の違いはあっても、無痛分娩をしなくても起こりえる合併症がほとんどです。そのときには全力で対応できる体制は整っています。無痛分娩施行中は産科麻酔を専門とする麻酔科医が常駐しています。安心して『選択』していただければと思います。